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俳優・富田三千代の視点ー稽古場の様子/暗黒舞踏の影響

2022年8月6日に富田三千代さんにZOOMでインタビューを行いました。本稿はその一部です。

話し手:富田三千代(聞き手:岡田)

ー稽古場の様子はどんな感じだったのでしょう。例えばよくやっていたワークやメソッドなどはありますか?

富田:そうね、私は、舞踏が大好きだったんですよ。暗黒舞踏。私が20代後半の頃、結構、暗黒舞踏の全盛期で。大駱駝艦とか土方さんのアスベスト館とかあるんですけど。大駱駝艦から卒業したいろんな分派があって、その中にダンスラブマシーンっていう古川あんずさんと田村哲郎さんがやっている舞踏集団がありまして。たまたまその集団の公演を見に行ったんです。そしたらあなたも舞踏をやれますっていう広告があって舞踏を習うことになったんです。週に2回、3カ月びっちり暗黒舞踏を習いました。で、今度はそれを楽天団に持ち帰って、習った同じ事をみんなでやってました。

 なので、岸田事務所+楽天団になってからもすり足の歩行訓練とか体で8の字を書いて動かしていくおどりのようなものがあるんですが、それをトレーニングとしてみんなでやってました。あと早稲田小劇場の肉体訓練なんですが六法(ろっぽう)ていうのがありまして、それを演出の和田さんに教えてもらってやりましたね。

 『糸地獄』の中で、最後、女達が「吹いてよ風」って言う時に踊り始めるところがあるんですけど、あれは舞踏からなんです。体で8の字を書いていくという。指先から8の字を書く、頭で8の字を書く、首で8の字を書く、胸で8の字、腰で8の字、足で8の字、体全体を使って8の字を書く。体が大きくなっていくっていうおどりなんです。糸女達が着物を着ているからこの袂(たもと)がふわっと動いたりして、すごく風を感じて気持ち良いんですよ。

 男の人達は、天井桟敷の独特の動きで名前は忘れましたが、フライパンの上でゴキブリが跳ねているような動きがあるんですが、それを稽古場で円になってやったりしてました。劇団の中でおもしろい訓練があったりすると、その人が中心となってみんなで試したりしてました。すり足の稽古はよくしてましたね。

―それは舞踏のほう[1]

富田:舞踏のほうで。腰を普通の高さよりも20センチくらい下げて、稽古場をだ円形ですり足で回ったり、真ん中で交差して2人1組ですり足したりとかしてました。あとはヒンズースクワットもしましたね。みんなで。

―結構筋肉トレーニングを。

富田:すごかったです。みんなでジョギングもやるんです。中野のスタジオあくとれから新井薬師まで、あと哲学堂まで走るんです。

―長い。

富田:で、私はジョギングが苦手なんですよ。それで、私だけ近道コース、違うコースなんです。で、みんな稽古場に戻ってきたら、ストレッチ、腹筋、背筋とか結構体は動かしていました。あの頃、腕立て伏せをしながらトントン跳んで移動していくのがあって、アクトレの端から端まで往復したりしてめちゃくちゃ体使ってました。意味なく。

―意味なく。

富田:意味なく使ってた。で、ウサギ跳びを何回かやった後にせりふを一気にザーッとしゃべるとか。だから呼吸は乱れてるんだけど、乱れたままテンション上げて息も切らさずダーッとしゃべるとか、変なこといっぱいやってましたよ。

―その訓練は、どう舞台に生かせられていったのでしょう。

富田:無心でやったっていうのが良かったんじゃないかな。一所懸命体を使うっていう。あの当時はそういう感じでしたよ、どこも。今の人って、お芝居の前にあんまり体動かさないでしょ。

―どうなんでしょう。

富田:私たちは、多分、いろんな日常をひっさげて稽古場に来て、それを持ち込まないっていう感じだったのかな。だから、それを真っ白にするために体を必死になって、ゼロにするみたいな感じだったのかな、今から思うと。

―体を動かすと気持ちが切り替わって、「やろう!」という感じになるんですか?

富田:多分そうだと思う。だから、せりふをどうしゃべろうなんて一切やったことがなかった。解釈もないよ。意味でしゃべるな、って言われてました。

―そうなんですね。もう少し詳しく教えてください。

富田:台本ができる前は、リチャード三世の長台詞「やっと忍苦の冬も終え……」とかを覚えて、その台詞を体に負荷をかけてしゃべる事もやりましたね。あとはエチュードもやりました。設定を決めて動き、台詞はアドリブで5分から20分ぐらいまで人によってちがいますが。2人、1組でやっていました。だから理生さんの本ができる前のその間でこういう事をやってました。理生さんの本ができてからはそこまではハードにはできないので、1時間ぐらいちょっと体を動かして、ストレッチ、腹筋背筋、発声、ヒンズースクワットぐらいまでやって、お芝居の稽古の準備に入ったと思います。

―それでも1時間は動かすんですね。

富田:そうです。1時間ぐらいやっぱ動かしてましたね。声も、「あ、え、い、う、え、お、あ、お」とか、「あいうえお、いうえおあ、うえおあい」とか、そういうのやってましたよ。

―なるほど。


[1] この会話の前で、能のすり足と舞踏のすり足について話をしていたので、「舞踏のほう?」と尋ねています。